大判例

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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)1105号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔編注〕一 原告訴訟代理人は、

「一 被告は、電話により、『原告会社は資産が皆無のでたらめ会社で、自分はその旨を大新聞に掲載するから、原告会社はただちに倒産する。あなたはただちにピロビタンの販売をやめるように。』などの原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述または流布してはならない

二 被告は、原告に対し、金五〇〇万円およびこれに対する昭和四五年三月一七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決ならびに右二の請求について仮執行の宣言を求めた。

〔判決理由〕一 争いのない事実

原告が乳酸菌飲料「ピロビタン」の製造卸売を業とする会社であること、被告が、昭和四二年六月二六日、原告との間に、原告の東京都杉並区第一特級営業所となる契約を結び、以後乳酸菌飲料「ピロビタン」の出荷を受けてその販売に従事していたこと、被告が昭和四四年一〇月分および一一月分の「ピロビタン」卸売代金を原告に支払わなかつたこと、ならびに、原告が同月末日をもつて被告に対する「ピロビタン」の出荷を停止したこと、以上の事実は本件当事者間に争いがない。

二 差止請求について

原告は、被告が電話により原告の取引先である多数のピロビタン営業所等に原告主張のような虚偽の事実を申し向けていることを前提として、その行為の差止を求めているが、被告が現在右のような行為に出ている事実あるいは今後そのような行為に出る虞があると認めるに足るような事実については、これを証明すべき何らの証拠もなく、かえつて、証人Yの証言および被告本人尋問の結果によれば、被告は、昭和四五年一月ころ以降は、乳酸菌飲料に関する営業には一切関与しておらず、現在原告主張のような行為に出ている事実のないことは勿論、今後もそのような行為に出る虞のないことも明らかである。もつとも、証拠によれば、後記三において認定したとおり、被告が二、三のピロビタン営業所に電話で警告ないし勧告をした事実は認められるが、これが原告主張のような虚偽の事実の陳述または流布にあたるものとは到底いうことができず、また、これをもつて被告が今後原告主張のような行為に出る虞があると推認すべき資料とすることのできないことはいうまでもないところである。そうすると、原告の右差止請求は、その前提を欠き失当といわなければならない。

三 損害賠償請求について

原告が、被告が故意または過失により前記のとおり虚偽の事実を申し向けたことにより原告にその主張のような損害を与えたとして、その賠償を請求しているところ、<証拠>をあわせ考えれば、被告が昭和四二年六月二六日、原告との間に、原告の特級営業所として原告から卸売を受けて「ピロビタン」を販売する契約をし、取引を保証するための保証金一一〇万円および地域開発のための分担金二〇万円を原告に支払い、その後まもなく「ピロビタン」の販売を開始し、その売上本数は最高一日一、三〇〇本程度にまで達したこと、ところが、昭和四四年九月ごろ、飲食物等にチクロを使用することが規制されるようになることとなつた関係から当時まで各営業所に一本七円で卸売されていた「ピロビタン」を一本八円に値上げするとの申し入れが、原告から被告その他の営業所になされ、被告ほか数名の営業所経営者がこれに反対したため、同人らと原告との間に接衝が行なわれていたこと、「ピロビタン」の卸売代金は、毎月末日までに売り渡された分を翌月一〇日に支払うこととなつていたが、被告の支払うべき同年一〇月分の代金については、たまたま、当時原告と原告から「ピロビタン」原液の供給を受けて「ピロビタン」(びんづめ)を製造し被告に出荷していた武蔵野ボトリング工場との間に紛争が生じた関係から、同工場と原告の双方から被告に対して代金の請求があつたこともあつて、被告は原告に対する右代金の支払いを留保していたところ、原告は、同年一一月末ごろになつて、被告ほか数名の前記代金値上げに反対していた営業所経営者に対し、一〇月分の代金支払いを催告するとともに、右代金の支払いがないときは同年一二月分以降の「ピロビタン」の出荷を停止する旨通告し、その支払いをしなかつた被告ほか数か所の営業所に対して同年一二月分以降の出荷を停止したこと、被告は、原告の出荷停止の意図を知り、急拠前記武蔵野ボトリング工場のTらと相談し、他から乳酸菌飲料の原液を買い入れるなどして、「ピロビタン」と同様の乳酸菌飲料を同工場で製造させ、これに「コメット」という名称を付して、被告の妻の営業名義のもとに、同年一二月初ごろから、被告自ら「ピロビタン」の従前の需要者らに販売しはじめたが、需要者が激減したため、一か月間ほどで右「コメット」の販売を取り止めたこと、ところで、原告の営業の実態については、同年九月ごろ、一、二の週刊紙にこれを批判する記事が掲載されたこともあつたが、同年一二月初ごろには、朝日新聞の記者が被告方を訪問し、被告から「ピロビタン」の販売をやめた経過について取材したうえ、その翌日の新聞紙上に原告の営業方法の実情に関する記事を掲載する予定である旨を被告に告げたので、被告は、原告の営業の実情が新聞紙上に掲載されれば、他の同種業者との競争も激しいことではあり、「ピロビタン」の需要者のうち購入を取り止める者が続出し、各営業所においても営業ができなくなるのではないかと考え、かねてから知り合いであつたピロビタン長岡営業所および同杉並営業所等二、三の営業所の経営者に、電話で、新聞に原告の営業の実情に関する記事が掲載されるので善後策を講じた方が良いとの旨を告げたこと、以上の事実は、これを認めることができる。しかしながら、右のような事情のもとで、僅かの期間でも配達が中断すれば顧客が購入を中止し営業所として経営を続けることができなくなることが容易に推認されるこの種乳酸菌飲料について、一一〇万円という多額の保証金を確保しながら僅かの代金(被告の支払うべき一〇月分の代金は、原告の請求どおりとしても金一万九、四二〇円である。)不払を理由に一方的に出荷を停止するという措置を受けた被告が、前記新聞記事の掲載により他のピロビタン営業所においても売上が減少し、その経営者が原告と同様の状態に陥るべきことを考え、かねて知り合いの二、三のピロビタン営業所経営者に前記の程度の警告ないしは勧告をしたからといつて、ただちにこれを違法とみることができないことはいうまでもないところである。

してみれば、原告の右損害賠償請求は、前提事実の証明がないものとして、その余の事項について判断するまでもなく、その理由がないものといわなければならない。

四 むすび

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、いずれもこれを棄却する。

(大江健次郎 楠賢二 庵前重和)

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